写真:森本美絵 ©Mie Morimoto

  1. 児島やよい

    もう7年前になるんですね、谷中墓地での「会田誠・岡田裕子 結婚披露宴」に伺ったのは。豪華メンバーの宴会芸と、凝った演出で、和気あいあいとしていて、すごくおもしろかった。強く印象に残っています。

  2. 岡田裕子

    ありがとうございます。あのとき、もう、おなかに寅ちゃんがいたんですよ。で、正式な結婚式はしなかったんですけど、パーティーくらいはやろうよって。私がね、「ゴッドファーザー」の屋外での結婚式シーンが素敵だなってこどもの頃から思っていたので、野外パーティーがいいなーって言ったんです。それが、花見の時期だよね、っていうところから会田さんのそうか花見なら上野だな、任せとけ、って一言で話がずれて行っちゃって。墓地で大宴会やることになっちゃった。
     ある意味、当時はノリと勢いで妊娠・結婚に至ったという感じです。それまでは、先々のことを考えたら、結婚もこどももあり得ないって思ってた。そろそろ年齢的に産んだほうが良いのかなってどこかで思ってたかもしれないけど。私の友だちも晩婚の人ばかりで。結婚してない人も多いし、しててもこどものいない人も多いし、そんなもんなのかなって思ってたから。

  3. 児島やよい

    私もです。こんなご時世で、こんな仕事をしていて、先々のことをちゃんと考えてたら、計画的になんてこども産めないですよね。でも妊娠がわかったとたんに、急に根拠のない自信が湧いて、大丈夫だって思ってしまった。

  4. 岡田裕子

    意外となんとかなってしまうんですよね、自分も回りの人も。でもこどもができてから、何となくこう、自分の仕事がより責任を感じてやるみたいな方向にスライドしていったような気もする。会田さんもそれまでは個人主義な作家って感じでしたけど、不思議と家族ができてから、自分の制作だけではなくて、後輩を指導する仕事や著述も増えて、仕事の幅に新しいものが入ってきたかなという感じはする。

  5. 児島やよい

    とはいえ、赤ちゃんがいて、経済的には大変じゃなかったですか?大人二人ならどんな生活でも良いけど、こどもがいるとそうはいかないし…。

  6. 岡田裕子

    結婚当初はすごいお金なかったですよ。キャベツばっかり食べてたり・・・美術予備校の先輩が貧乏にはキャベツだって言ってたから(笑)。でも、寅ちゃんが母乳飲んでくれたから助かったです。自分は水飲んでれば良いし、これが粉ミルクだったら大変だったかも。お金がないことにはそれなりに会田さんも私も慣れてたので、すごく大変とは思わなかった。息子の将来の学費なんて考えてもいなかった。その時の目の前をクリアする事や、日々生活するのに精いっぱいだったから妙に楽観的でした。逆に今のほうがあれこれ現実的に考えるようになっちゃいましたけど。苦労してたほうが美しい思い出に変わりますね。当時は悩み事もいろいろあったはずなんだけど、そういうのも今になればきれいな思い出です。

  7. 児島やよい

    会田さんは育児については?

  8. 岡田裕子

    彼は料理は上手なんですよ。でも離乳食は俺はハマりそうだって宣言してたけど、結局数回しか作ってないかな。会田さんについては、結婚してから初めて知ったこととか多いんですよ。意外と家に帰ってくる人なんだなとか(笑)。一緒になる前は、火宅の人みたいになっちゃうのかなってぼんやり思ってたんですけどね。で、意外にこどもと一緒にいる時間が長かったりしますね。制作は家でやる仕事だし、3人で地方の展覧会に参加したりもしたし。寅ちゃんが大人と一緒のごはんを食べられるようになってからは、食事を率先して作ってくれたりもしてますね。

  9. 児島やよい

    映画「ニアイコール会田誠」を観てると、よちよち歩きの寅ちゃんがぱたんと倒れたり、あー近くに画材があるけど大丈夫!?と人ごとながらハラハラしてしまいます(笑)。ハイハイとかヨチヨチの時期って、床にあるもの、手が届くところにあるものをなんでも掴んで舐めたりするでしょう?うちも、一瞬たりとも目が離せない時期がありました。寅ちゃん、絵具とか口に入れちゃったりして、大変じゃなかった?

  10. 岡田裕子

    大変でしたよ。ハイハイしながら、なんでも手につかんで引き出しちゃう。当時、私がお金の為に「モーニング娘。」の絵本の挿絵を描くという仕事を受けてて、パステルとか使った道具を机に出しっ放しにしてた。ある日、なんか寅次郎がこっちを見て笑っているのでフッと見たら口の回りが真っ青になってて、凄いビックリして、とりあえずシャワーで口の中洗ってから、会田さんに電話して「どうしよう、青のパステル食べちゃったよ」って言ったら、「どこの会社のだ!?ふむふむ大丈夫だ、そこの製品は安物で顔料が入ってない、毒性のないものだから」って。でもその時は、なんてことしちゃったんだ、ってすごいショックでした。
     それがきっかけになってね、しばらくパソコンでできる仕事に切り替えようと思ったんです。ずっと、やってみたいと思ってたし、はさみとか絵具とかを家に転がすような環境は半年くらいお休みしようかなと思って、映像に切り替えた。そしたらそれはそれで良い方向に転んで、いくつか新作が作れたので良かったなと思ってるんです。

  11. 児島やよい

    そうだったんですね。岡田さんの映像作品、すごくインパクトがあります。そういうやむを得ない状況というか、切羽詰まったところもあったんですね。

  12. 岡田裕子

    私、まったくもって失敗ばかりなんです、仕事にしてもこどもの育て方にしても。でもそういう人間が表現をするという事もいいと思うんですよ、完璧なものだけを社会に還元するんじゃなくても。不完全な人間だからこそ表現したい事が出てくる場合も多々あるし。特に親になってからは自分の不完全さを再認識する日々です。
     私、児島さんが子育てしてると孤独感があるってブログに書いてたの、よくわかるなと思って。私も、学校とか父兄とかこどもの回りの環境に後ろめたさみたいな、自分が外れちゃってる感じがあるんです、幼稚園でも小学校でも。考え過ぎなのかもしれないけど、やっぱりアーティストの夫婦って珍しいですよね、なんか現実味のないことやってると思われて、理解されないんだろうなとか、そういうのにいつもドキドキしながら暮らしてるんです。私生活は気弱なもので。

  13. 児島やよい

    孤独感というのは、特にまだ赤ちゃんだった時、こどもと二人きりでずーっと家にいると、なんか社会から遮断されたような気がしたり、お互い煮詰まってる感があったりしたんですが、でもそれは夫にもわかってもらえないと思っていて、ほんとに孤軍奮闘なのよ私!というものだったでしょうか。今、客観的に振り返るとそこまで思い詰める状況ではなかったんですけどね。あと子連れで外を出歩くと不便だったり迷惑そうな目で見られたりする、という現実に愕然としたかな。
     世間的には、私もフリーで、大学の非常勤講師っていうのが唯一、人にわかってもらえる肩書きなんだけど、それも収入としては微々たるものですし…フリーランスキュレーターとかライターなんてフリーターと変わらないですから。

  14. 岡田裕子

    アーティストもそうですよ。

  15. 児島やよい

    一人の時はそんなに感じなかったんだけど、保育園の申請書類とか書くときにね、職種って、はてなんて書くんだろう?って。区役所の人が自宅に家庭訪問に来たり、時間割を書いて提出したり、確かに仕事をしています、という証明をしないと入れてくれなかった。保育園に入ってからも、毎日、行き先が違うのなら、連絡帳に書いてください、って。

  16. 岡田裕子

    保育士さんによっても対応が違いますよね。東京の公立保育園では家庭での朝晩の献立を日誌に全部書かされましたよ。そこまでするのね?って少し驚きました。保育園って虐待がないかチェックしてるのかなとも思いましたね。ヘンな家庭だって思われないようにって卑屈になって、一生懸命献立書きましたよ。幼稚園はその意味ではドライでしたね。おうちでの様子はどうですか、とは聞かれるけど、食事の内容までは聞かれない(笑)

  17. 児島やよい

    離乳食の献立を毎日書くの、確かにプレッシャーでした。今はないけど。私は要領が悪いので、もう、ダメ主婦一直線ですよ。週刊誌の吊り広告とかで「バカっ母」とか「今どきの親は朝食に菓子パンを食べさせる」とかって見ると、うわ私のこと!?ってドキドキする。

  18. 岡田裕子

    菓子パンいけないの?いいじゃないですか。
    ところで、私、息子が2、3才のとき『女性自身』で「寅次郎くんとアートを体験しよう」みたいなページを連載していたんですよ。そのときも、美術館等のアートスポットは、必ずしも赤ちゃんや幼児連れの母に優しい場所じゃないという事を認識しました。
    逆に、こどもができて、自分がそれまで一般的な社会と隔たりをつくって生きてきたんだなとも再認識します。常識はずれなことをあたりまえと思ってずっと暮らしてきたということに初めて気がついたというか・・。アート界で普通にその一員として溶け込んでしまったので、みんなが変わってて、個性がないと埋もれちゃう、それが当たり前みたいなことで暮らして来たので、逆に普通の生活にカルチャーショックはありましたね。 でもとにかくこどもたちは千差万別、様々だというのも知りました。放課後なんかは、今住んでる所は農村地帯なせいか、わーって近所のコがみんな家に上がり込んできちゃったりするんですが、そこでこども達を観察してるとほんとにおもしろいんですよ。

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