写真:森本美絵 ©Mie Morimoto

  1. 児島やよい

    子どもが生まれて作品が変わったアーティストって、実はたくさんいるかもしれないですよね。

  2. 八谷和彦

    小沢剛くんはすごく変わってる印象がするし、僕自身も変わっているかもしれないです。ICCの個展会場に出してるコロボックルのテーブルとかは、子どもが生まれたあとにつくった作品なんですよ。

  3. 児島やよい

    小沢さんも、岡本七太郎の作品は、コロボックルをテーマにしていましたよね。

  4. 八谷和彦

    実は、コロボックルを描いた佐藤さとるさんの本を子どもが産まれた後に読み始めたんですけど、これ、すごく良い話なんですよ。なぜだか僕、「小人だ!」って思ってた時期があって、それは受動意識仮説という考え方と通じているんです。その説では、比喩として小人という概念が使われていて、よく小人が出てくる童話のなかで、人間が寝ている間に小人が靴を修理してくれたりするエピソードが描かれていますけど、脳を活性化するというのは実意識のかなり上のほうでの話で、本当の脳の大部分は小人の活動のように無意識下にあるんじゃないかと考えるんです。我々が意識だと思っているのは、実は脳の活動の本体じゃなく、ほとんどの活動は意識下で行われ、意識はそれを後で合理化するためにつくられたもの、必ずしも意識だけがすべてをコントロールしてるわけじゃないっていう仮説です。それ、すごくいいなと思って。小人という概念が生まれたのも、説明できないわからないことを人間が合理化するための方法なんですよね。たとえば子どもに、いちいち「池に行ったら溺れて死ぬから」って説明しても行っちゃいますけど、「池には河童がいるから」って言うと怖がって行かない。妖怪や妖精も同じなんです。作品をつくっている時も、こういうものを今つくったらいいんじゃないのかなって、よく寝てる時に思いつくんですが、きっと僕よりも意識の下の小びとのほうが優秀なんでしょう。何かが降りてくる時の、意識で説明できないようなことも原理は同じなのかな。子どもが生まれてから、そういう風に脳や意識に興味が向くようになりましたね。

  5. 児島やよい

    ほかにも、変わったと思うことはありますか?

  6. 八谷和彦

    あとはやっぱり、自分の心は、ホルモンのような科学物質によってコントロールされてるなと思うようになった。頭で可愛いと思うのとは違って、ずっと子どもと一緒にいて、密接にいる時間が長ければ長いほど、ちゃんと子どもをかわいがれるんです。女性じゃなくても、母性としか言いようのない何かが人間の男の人にもちゃんと仕込んである。たぶん、一夫一婦制がある程度定着しているのも、人間の子どもがあまりに未熟な状態で生まれてくるから、男親が手伝わないと生存率が低くなってしまうからだと思うんです。遺伝子を残すためなら、たくさん種をつけたほうが有利だけど、でも子育てを手伝わないと全滅してしまうから、手伝うようになった。ホルモンは匂いとかで分泌されるって言うけれど、スイッチが入った人の横にいると、何かを伝達されることはあると思う。脳というと理性や意識に注意がいくけど、むしろそういう匂いが媒介するものは大きいと思いますね。自分の子どもがかわいいと思えるのも、ホルモンでスイッチが入るってことですから。

  7. 児島やよい

    八谷さんが、そんなに自覚的に思われているなんて意外ですね。

  8. 八谷和彦

    自分が変わったのがわかるんです。「もう俺はダメだ。でもダメでもいい」って(笑)。そういう自分の変わりっぷりを楽しみながら生きていけるのは、いいなと思いますよ。

■子どもの成長と葛藤

  1. 児島やよい

    赤ちゃん言葉についてはどうですか?「でちゅ」って、つい言っちゃいません?

  2. 八谷和彦

    やっぱり赤ちゃん用語になりますよ。それはもう自然に。子供が、コップのことをポックって言うんですけど、こっちも面白いから「ちっちゃいポック出そうかね」とか言ってるし。修正しないといつまでポックって言うのかな、とか。靴はやっぱりクックだし、むしろそのほうが音的に言いやすいんです。エレベーターがエベレーターになるとか、頭と下が入れ替わるような、幼児語には独特の法則があるけど、ひょっとしたらそっちのほうが人間の生理に合っているのかもしれない。

  3. 児島やよい

    言葉もそうだし、ひとつひとつ学んでいく過程が見えるのはおもしろいですよね。

  4. 八谷和彦

    やっぱり、人間ができ上がっていくんですよ。最初は嫌なことがあると、ぎゃーって泣いていたけれど、それはダメってちゃんと言うと我慢するようになる。理解できてるのかはわかんないけど、説明したほうがやっぱりわかる。

  5. 児島やよい

    そうですね。子どもなりに納得しようと努力してるのはわかりますね。

  6. 八谷和彦

    赤ちゃんだったときは、わーんって泣いたらやってくれてたんだけど、だんだん歩くようになってくると、「危ないからこれはダメ」とかどうしても言い聞かせないといけない。そこで葛藤が出てきて、それを納得させていくプロセスがおもしろい。

  7. 児島やよい

    納得させるのが実は結構大変でしょう。魔の二歳って言われてますもん。

  8. 八谷和彦

    たしかに、何するのも「いやいや」で、ご飯食べようって言っても「ご飯食べない」って言って、こっちで食べてると「食べる」って言う。自我が出てきてるからなんですよね。

  9. 児島やよい

    一回、うちの子に「じゃあシャツを着てズボンをはいて」って言ったら、「僕ロボットじゃないもん」って言われてびっくりした。どこでそんな言葉を覚えたんだ?って。ロボットが言いなりになるものだってわかってるってことですよね。びっくりして手を止めちゃった。

  10. 八谷和彦

    予想外のところで予想外の気の使い方するところが、「ああ人間になってきてる」って感じますね。

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写真:児島やよい
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